2019年8月、ある日の朝8時。
南海線なんば駅に、中川政七商店のテキスタイルブランド「遊 中川」の店長たちが集合しました。
今日は「さんち修学旅行」の日。
学生の修学旅行とは、ちょっと違います。
「さんち修学旅行」はお店で扱っている日本各地のものづくりの魅力を、自分の言葉で語ってお客様にお伝えするべく、現場を実際に見て理解を深めるという、私たちスタッフの勉強の場。
現場で見た感動がきちんとお客様に伝わったら、中川政七商店が目指す「日本の工芸を元気にする!」第一歩になるはずです。
今日集まったのは北は札幌から南は博多店まで5名の店長たち。
電車で向かうは和歌山県高野口。さぁ出発です!
午前の部は私、遊 中川 ecute上野店の店長、田中がレポートを書かせて頂きます!
和歌山県高野口へ
遊 中川では、日本各地にある様々な生地の産地と一緒に、毎シーズンの新作テキスタイルを作っています。
今回はお邪魔した和歌山県高野口というエリアは、今年の新作テキスタイル、『パイルジャカード網代』シリーズなどの生地が作られている産地です。
なんば駅から電車に揺られること1時間ちょっと。和歌山に降り立つのさえも初めてな私です。
ですが、高野口という地名は以前から店頭で知っていました。
遊 中川の布製品には、その生地が生まれた産地や技術背景を伝える、テキスタイルタグが付いているのです。
そこに書かれてあった「高野口」という地名。実際は、どんな場所なのでしょうか。
降り立ったのは高野口エリアの中心、橋本駅。駅前で素敵な笑顔で私たちを出迎えて下さったのが、株式会社中矢パイルの中矢社長です。
新作の「パイルジャガード網代」のジャガード生地を製造してくださったメーカーさんです。
今日はよろしくお願いします!の気持ちをこめてみんなで一礼。ここからは車で移動します。
車に揺られていると、広々とした紀ノ川の景色が見えてきました。
紀ノ川は中川政七商店の創業の地、奈良から流れているらしいのですが、遠くから見ても本当に水がきれいです。
なんでもこの紀ノ川で泳いで育った子どもたちの中に、水泳の某有名選手もいるのだとか…!
中矢さん曰く「ものづくりには綺麗な水はかかせない」とのこと。
なるほど。そういえば昨年お邪魔した堺の注染手拭いのメーカーさんも、そう仰っていたことを思い出しました。
「ものづくりの産地にはきれいな水あり」なのかもしれません。
新作テキスタイルが作られるのは、世界唯一の「ある素材」の産地
霊山・高野山の麓に広がるこの一帯は、実は世界唯一の「特殊有毛パイル織物」の産地。
と書くと難しそうですが、国会議事堂や新幹線の椅子張りも、高野口のパイル織物が使用されています。一方で世界的なブランドのドレスやコートにも採用されるなど、活躍の幅が広い素材です。
最近では、高品質な「エコファー」 (フェイクファー) の産地としても国内外から注目されています。
▲今回のパイルジャガード網代シリーズにはパイル織物 (上のグレーの部分) とエコファー(もこもこの白い部分) 両方が活かされています
中矢さんとお話しながら、あっという間に1箇所目の見学場所に到着。やってきたのは木下染工場さん。
後に紹介する、中矢パイルさんで織った生地に色をつける「染め」のメーカーさんです。
今回の遊中川の新作『パイルジャカード網代』の場合は、
「織り」…後ほど見学する中矢パイルさん
↓
「染色」
↓
「シャーリング」 (生地のケバケバを無くし、手触りをよく工程) …こちらのメーカーさんも後ほど登場します!
↓
中矢パイルさんに再び戻り「生地のチェック(検査)」
を経て生地が完成します。このように産地の中で工程が分業されているんですね。
この中でも「染め」を担当する木下染工場さんの詳しい工程は次の通り。
1、染める
2、余分な染料を洗い、絞る
3、脱水
4、生地を畳む
5、乾燥させる
ちなみに上のたたんでいる生地は、お掃除用のクロス生地。
私達の身近にある日用品が、こんな風に作られているのかと、皆で「あぁ!」「へぇー」の嵐でした。
木下社長さま、暑い中ご丁寧なご案内をありがとうございました!
最初に拝見した木下染工場さんでテンションはもう120%です。このまま今日はどんな1日になるのだろう?ますますワクワクしてきました!
パイル織りの現場へ潜入!
熱も冷めやらぬうちに再び車に乗り込み、向かった先は中矢社長の中矢パイル工場。
中矢社長が、「この新しい事務所になってからこんなに多くの方々が来て下さるのは初めてだ」と仰っていました。
大勢ですみません。お邪魔致します!
遊 中川では以前にも、中矢パイルさんと一緒にものづくりをしたことがあります。
それが2017年のテキスタイル『杉木立』です。
ここ高野山の杉木立をパイルで立体的に表現したデザインは、人気であっという間に完売頂きました。このコートは私も愛用しています。
こうした生地が、実際どのように織られているのか。いよいよ工場の中へ。
奥までずらりと並ぶ大きな機械に、絶えず響く大きな音。もう見ただけで圧巻です。
こちらは小巻にした糸を機械にセットしているところ。
こういう風に生地ごとに使う糸が、タテ・ヨコそれぞれに必要な糸の本数分だけ、機械にセットされていくんです。
▲先ほどのセットされた糸が、集まって織り機に繋がっています
なんでも、これが1番大変な作業だそうで、1人でやると丸2日かかるとのこと・・・!
急いでる時はスタッフさん総出でこれを機械にセットするそう。
黙々と作業されているスタッフさんにお声がけしたら、「これが1番大変なのよ~」と手を止める事なくお返事下さいました。
こうやって人の手作業があってこそ動く機械なんだ。
機械=人の手作業ではないなんて誰が思おうか。
そんな事を思いました。
複雑なパイル織物の正体
この後、実際に生地を織る工程に入るのですが、パイルジャガカートの織りは複雑で、理解力に乏しい私は一回の説明だけでは理解しきれず何度も聞く事に。
タテ糸とヨコ糸を合わせて生地が織られていくわけですが、パイル織物は織り上げた生地の真ん中に切り込みを入れて2つに切る。だから反転する模様がある…?
▲確かに機械の後ろは、生地の巻物が2本あります
ん?!どういう事だ?と、その時のメモがこちらです。
この真ん中で切られた部分がふわふわのパイルになるわけですね。
なるほど!やっと理解できた!!と思ったらもう感動の嵐です。
あの生地があーなって、こーなって…!
目の前のものづくりとお店に並ぶバッグや服。やっと、全部が繋がりました。
とても手間のかかっている生地だなと、見て触って解っているつもりだったのですが、実際の工程を見ると…終始、感動しきりでした。
見学中、機械は動いたり止まったりを繰り返していました。
生地を織っている間に、どこかで一本でも糸が切れてしまっていると、止まる仕組みになってるんだそうです。
職人さんが、どこの糸が切れているのか?をサッと見て直してまた動かして。の繰り返し作業です。
ふと足元を見ると、機械に吊るされたこんな重しがあり。
これ、何だろう?と思って中矢社長に伺うと、生地を織るときの強さを調整する重し。なんと、職人さんが気温や湿気を見て、その日その日で機械に吊るしている重しを変えているんだそうです。
ひぇ~!
「これぞ職人技だ!」とさぁっと鳥肌が立ちました。
職人さんしかわからない世界。こういうところが、凄いですね!
ものづくりのバトンを繋いで
こうして織られた生地が、さらに染めや仕上げの工程を経て、縫製、検品へとバトンを繋いで、店頭に並びます。
私も昨年、この高野口パイルのコートをワクワクして買った時のように、今年の新作も、お客様がお店でワクワクして手に取って、試着して、気に入ってご自宅に連れ帰ってくださるように。
今までより一層、作っているメーカーさんの分も、誇りをもってお客様に魅力を伝えて行こう。
そう思った今回の修学旅行でした。
中矢さん、木下さん、ありがとうございました!とても刺激的な1日でした。
よく晴れて暑かった高野口、産地としても熱かったです!
では、私のレポートはここまで。続く午後の部は、遊 中川 近鉄あべのハルカス店の上村店長にバトンタッチさせて頂きます!
午後のスタートはかわいい猫クッションとともに
ここからは私、遊 中川 近鉄あべのハルカス店 店長・上村がお送りいたします!どうぞお付き合いくださいませ。
我々が次に訪れたのは杉村繊維工業さん。
世界に誇れる高野口のものづくりを、もっと多くの人に知ってもらいたい!と他のメーカーさんと協業してFabrico (ファブリコ) というファブリックブランドを立ち上げられています。
中川政七商店の直営店にもFabricoさんの可愛らしいネコ型クッション「NEKO」シリーズが並んでいます。
本物のネコさながらのふんわりとした触り心地に、持ち帰りたくなる人も…(笑)
エコファーの産地としての高野口の歴史、その技術の高さについてなど、たくさんお話をしていただきました!
高野口の生地が高品質な理由
高野口は昭和初期から培ってきた加工技術により、世界有数のエコファーの産地と言われています。
生地をなめらかに手触りよくする仕上げの工程と検品技術の高さが、品質を支えているのだとか。
▲仕上げによって右の生地が左のようにふわふわに
早速お話を伺った「仕上げ」の工程を見学に、我々は堀シャーリングさんへ向かいます。
見慣れたあの生地も、こうして作られている
いざ、工場へ。中は…とにかくすごい熱気です!
▲右側の緑の壁は生地に熱処理を加える炉。近くにちょっといるだけで汗だくになる程の熱気です
電車やバスの座席のシートの最終仕上げも、手がけられているそうです。
織られた生地を何度も機械にかけてケバを取り、なめらかな仕上がりにしていきます。
▲こんな生地、電車内で見たことがあるのでは?
▲こちらは違う生地ですが、このような刃で表面をコンマ何ミリという世界で削ぎ、揃えていきます
こうすることで例えば座ったときにも、おしりにパイルのケバが付かないようになるんだとか!
何度か機械にかけられたものを触ってみて、これやったら大丈夫そうやなぁと思っていた生地も再び機械へ…
こうして精度を高めていくことで、私たちが何気なく座っている座面シートなどになるんですね。
技術と忍耐の賜物です。
実は織りだけじゃない。高野口パイルの「編み」の世界
さて、堀さんの工場を後にして、我々は最後の目的地へ。今までとはちょっと違う「編み」の現場を見せていただきました。
通常生地づくりは、織り、編みで得意な産地が分かれますが、高野口は、中矢さんのような織りだけでなく、編みを得意とするメーカーさんもいる珍しい産地。
伺った先では、シープボアというモコモコとした毛並みが特徴的な生地が作られていました。
政七商店の冬のネックウォーマーもこちらで作っていただいています。(秋の入荷予定です、是非お店で着け心地を実感してみてください!)
機械の全景はこんな様子。人の背丈ほどあります。
▲右側の機械、黄緑色の生地が編まれています
中心部分を覗いてみると、糸が円を描くように高速で編まれていました。
筒状に編まれた生地はどんどん下に降りていきます。
出来たての生地はボリュームがあり、想像以上の迫力でした…!
はじめて見る機械や技術に興味津々の我々、見学時間が押してしまい、最後は少しかけ足になってしまいましたが、作り手さんの熱い思いやこだわりを生で聞くことができた、またとない貴重な機会でした。
まだまだ見たいこと・聞きたいこともたくさん。
自然も人も素敵な高野口、また訪れたいです!今回お世話になった皆さん、本当にありがとうございました。
そして記事を読んでくださった皆さん。お店で『パイルジャカード網代』のアイテムを見かけたら、ぜひ私たちに尋ねてみてくださいね。まだまだ熱く語れます!