「北欧と北陸は似ている」
そんな気づきから、2020年1月にあるブランドが誕生しました。
名前は「RIN&CO.」(りんあんどこー)。
北陸の地で育まれたものづくりの技術をもとに、さまざまなプロダクトを展開する総合ブランドです。
立ち上げたのは、福井県のとある漆器メーカー。なぜ漆器の会社が新たなブランドを手がけることになったのでしょうか?
漆器の老舗が始めた新たな挑戦
「RIN&CO.」を立ち上げたのは、創業1793年の老舗「漆琳堂」。
多様な伝統工芸が息づくものづくりの集積地、福井県鯖江市で、江戸時代から代々受け継がれてきた塗りの技術を生かし、さまざまな越前漆器を手がけています。
▲漆琳堂本社。工房にはショップが併設され、多くのお客さんが訪れる
代表は8代目となる塗師の内田徹さん。
赤や黒といったこれまでの漆器のイメージを覆した自社ブランド「aisomo cosomo」「お椀やうちだ」を展開するなど、業界に新風を吹き込む取り組みを進めてきました。
▲色とりどりの漆を使った「aisomo cosomo」
▲毎日の暮らしの中で使い続けるお椀を提案する「お椀やうちだ」
▲漆琳堂代表の内田徹さん
「自社ブランドを通して、これまで漆器に馴染みのなかった若い方にも知っていただけるようになりました。特に『aisomo cosomo』は新商品を生み出す仕組みがないまま、業績が予想以上に伸びている状態です。このまま同じことを続けていても先細りする。自分もまだまだ新しい挑戦をしてみたいと思い、新しいブランドを立ち上げようと2年前から構想を練り始めました」
パートナーとしてタッグを組むことになったのは、熊本のゆるキャラ「くまもん」をはじめ、幅広いジャンルのデザインやブランディングを手がけている「good design company」の水野学さん。
ヒアリングに1年以上の月日を要し、新ブランドのコンセプトを決めていきました。
漆器の未来から、北陸の工芸の未来へ
当初は漆器のブランドを考えていた内田さんでしたが、北陸の産地をリサーチしているなかで、さまざまなものづくりを扱う総合ブランドにすることを決めたそう。
「北陸にはいろんな産地があるものの、下請けや部材で終わっているものが多く、最終製品としてなかなか世に出ないという課題がありました。
すばらしい技術をもっと多くの人に知ってもらいたいという思ったんです。それに、ゆくゆくは新ブランドでショップ展開、となった時に漆器だけじゃつまらないじゃないですか。北陸の工芸を熱く語れるようなお店の方が面白いですよね」
▲「実際に産地を巡ることで、あらためて北陸の可能性を感じました」と内田さん
また、“北陸の風土”も新ブランドのヒントとなりました。
「山に囲まれた湿潤な気候は漆器が固まるのに適しているし、豊かな雪解け水は和紙や繊維に欠かせません。豊富な木や土があったからこそ木工や焼き物も発達してきました。この地だからこそ息づいてきたものづくりがある、そんな想いをブランド名に表現しようと思ったんです」
新たなブランド名は「RIN&CO.」に。
「RIN」は「Reason In Northland(北陸の地である理由)」の頭文字から、「CO.」は「産地や地域の仲間たち」という意味が込められています。
つながりが生まれたきっかけは「RENEW」
「RIN&CO.」は漆器や和紙、木工、焼き物、繊維など、北陸各地の産地が手がけたプロダクトを展開しています。
内田さんは産地の枠を超えて、どのようにつくり手たちの協力を得ていったのでしょうか。
「一番大きなきっかけは私のお店もある鯖江市河和田(かわだ)地区で行われた『RENEW』というイベントです。漆器だけでなく、眼鏡や和紙、打刃物、箪笥、焼き物など、ものづくりの現場を一般の方に見て知っていただくイベントで、事務局を担当したことからつくり手の方とのつながりが生まれました」
▲普段入ることのできないものづくりの現場を一般公開する「RENEW」
▲期間中はなんと全国から3万人以上の方が訪れる
「RENEW」に関わるまでは、同じ地区にいても異業種だとあまり接点がなかったそう。事務局としてさまざまなつくり手とやりとりするなかで交流が生まれ、今回の「RIN&CO.」でも内田さんの思いに共感する仲間を見つけることができました。
商品のコンセプトは「北欧」!?
次に考えたのは、商品コンセプト。デザイナーの水野さんが北陸に足を運んだり、お互いに何度も打合せする中で、あることに気づいたそうです。
「雪が多く曇天が多い北陸の気候は“北欧”に似ている、という話になったんです。北欧も白夜で冬は雪深い。自然と家のなかにいることが多くなるから、普段の暮らしを楽しめるようなプロダクトやデザインも発達している。ものづくりのメーカーが多いところも似ているなと感じました」
思わぬところで北陸と北欧の共通点を感じた水野さんと内田さん。これまで和の文化のなかで使われることが多かった工芸品に北欧のテイストを取り入れることで、洋の文化にもマッチするプロダクトが完成しました。
漆琳堂の硬漆シリーズ
ここからは「RIN&CO.」の第一弾として発売する商品を少しご紹介します。
まずは内田さんが代表を務める「漆琳堂」の硬漆シリーズから。福井県、福井大学との産学官の連携により開発された、食器洗い機にも耐えうる漆を使った漆器です。
▲まるで漆器とは思えないほどの繊細で美しい色合い
独特の刷毛目が目を引く漆器は、職人の手塗りによるもの。塗り直しがきかず、熟練の技術が求められる技法です。
色は7種類。現代の食生活にも合う独自の形状と美しい色合いは、まるで洋食器のよう。指紋や傷がつきにくく、普段使いできる食器です。
宮吉製陶の白九谷シリーズ
石川県を代表する焼き物といえば「九谷焼」。その特徴は華麗な絵付けですが、「RIN&CO.」ではあえて絵付けを施さず、白磁の透けるような美しさを際立たせた食器をつくりました。
▲独自の釉薬でつくる美しい白磁の九谷焼
強度にすぐれた白磁の九谷焼は、漆の世界でも長年、漆の保存容器として使われてきました。「RIN&CO.」の硬漆シリーズと同じ形状で展開し、九谷焼の新たな一面を打ち出します。
瀧ペーパーのポチ袋
越前和紙は言わずと知れた、日本を代表する和紙の一つ。もともとはお殿様に献上する奉書紙として漉かれていました。「RIN&CO.」では、奉書紙のように“大切なものを届ける・渡す”文化を残したいと、越前和紙のポチ袋をつくりました。
手がけるのは産地でも珍しい、和紙の生産から加工までを手がける福井県越前市の「瀧ペーパー」。さまざまな世代に好まれるやわらかな色合いとかわいらしいデザインが特徴です。
井上徳木工の隅切りトレイ
福井県鯖江市河和田地区にある井上徳木工が手がけるのは、木目が美しい白木のトレー。木地のなかでも重箱やお盆などをつくる「角物師」としての技術が生かされたプロダクトです。
木の特徴を見極め、緻密に計算されて組まれた木地。シンプルだからこそ、美しく仕上げるのが難しいトレーは、日常のどんなシーンにも溶け込みそうです。
エーリンクサービスのトートバッグ
繊維の産地としても有名な北陸では、多湿な気候と豊かな川の水から、品質の高い織物の産業が息づいてきました。「RIN&CO.」では繊維のなかでも雑貨用バッグの企画・製造・加工で国内シェアトップを誇る福井県鯖江市の「エーリンクサービス」とオリジナルバッグを制作。
繊維業界も時代とともに多様化するなか、最新の設備と技術を用いてつくられるバッグで北陸の繊維産業を盛り上げていきます。
※近日発売予定
山中漆器工芸の丸盆
全国の挽物産地の中でも、群を抜いているのが石川県の山中漆器。ろくろを用いて木を削り加工する木地は、美しい山中漆器に欠かせません。そんな高いろくろ技術を用いて作られたのが山中漆器工芸が手がける「丸いトレー」。
木の美しさを最大限に引き出したトレーは、なめらかな曲線が特徴。越前漆器とはまた違った高い技術を感じることができるプロダクトです。
これらの商品を皮切りに、「RIN&CO.」では北陸のさまざまなものづくりの魅力を発信していくそう。
「北陸にはまだまだ素晴らしいつくり手がたくさんいます。RIN&CO.をきっかけに、もっともっと知ってもらう機会を増やしていきたいですね」
内田さんの挑戦は今まさに始まったばかりです。