日本各地から五十を越える作り手たちが集う中川政七商店主催の合同展示会「大日本市」。 その運営を担うメンバーは、日々、全国の作り手と交流し、年間何百という品物に出会う、いわば「いいもの」の目利き集団。 この連載では、そんな彼らが「これは」と惚れ込んだ逸品をご紹介。実際に使ってみての偏愛を語ります。
2020-10-01
「良い鋏は花を長持ちさせる」と教わりました。小林製鋏のFLORIST
ブランド:小林製鋏
"江戸時代から続く日本有数の刃物産地である越後三条。 農家向けの収穫はさみを専門とする小林製鋏がつくる園芸はさみです。 最小設計の扱いやすいサイズでありながら、気軽で鍛造と職人の手仕上によりするどい切れ味を持ち合わせた本格派の鋏です。"自宅にはいつも花があるわけではないけど、花があると気持ちが明るくなる。でも生花は次第にしおれてくる。いつも「あーもうちょっと長く元気でいてくれたらな」と思っていました。
「FLORIST」つくり手の小林さんから聞いて響いたのは、「良い鋏 (はさみ) は花を長持ちさせるんです」という話。切れ味が良いと茎の水の通り道を痛めないので、水の吸い方がよくなるのだそうです。
話を聞いたのは3年前の「さんち修学旅行」。工芸の製造現場にお邪魔して、ものづくりの実際を肌で感じ、販売や接客に生かそうという研修です。
小林製鋏さんのある新潟県三条市は、全国有数の鍛冶の町。技術は町なかで細分化され、農具、包丁など「◯◯専門」を掲げる工場がたくさんあります。中でも小林さんは、果物・野菜収穫用鋏のスペシャリスト。農家さんが使うプロ仕様の収穫鋏を、全国でも数少ないという鍛造(たんぞう・鋼を叩いて製造する)技法で手がけています。
コンパクトな花切り鋏「FLORIST」
私が手に取ったのは花切り鋏の「FLORIST」。切れ味はプロ仕様そのままに、庭先やベランダの草花を生けたいときなど、普段の生活の中で気軽に使えるようコンパクトなサイズになっています。手に持つと、刃先まできれいに磨き込まれて、細部まで美しさを感じます。安定した持ち心地で、家のまわりの草花を摘むのに使ってみると力を入れずにシャキッと切れました。これなら初夏に実がなる、庭のびわの木にも楽に使えそう。子どもと一緒に野花を摘みに行った時も、使いやすそうにしていました。
サイズも小さいので、玄関周りに場所を取らずに収納できます。
気に入った道具がある嬉しさと気持ちの変化
鍛造の鋏は、鋼を叩けば叩くほど強度が増して丈夫になり、刃を磨く技術が高ければ高いほど切れ味が良くなるそうです。製造現場を知っていると、気持ちのいい切り心地が嬉しくなります。切れ味がいいと花が長持ちすると聞いている分、摘むときにも草花に思いがこもります。
道具があることで、何気なくいけていた花にも思い入れが持てるのはいいな。花を飾る機会も増えそうです。
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