手績み手織りの哲学
麻へのこだわり
一般的に生地の品質は、糸が細く、織りが詰まっているものが上質とされます。中川政七商店の生地は手で績んだ糸を使っているため、**番手(=糸の細さを表す)の糸といった表現ができません。熟練の手をもってしても糸の細さに若干のばらつきがあるからです。そのため生地の品質を測る尺度として、目打ちというものを使います。
目打ちとは、1インチ四方に経糸・緯糸が合計何本入っているかを数えた数値です。糸をより細く績み、より密度を高く織ったものが目打ちの高い生地となります。一般的な生地の目打ちは60~70本程度ですが、中川政七商店では目打ちが85本を超えるものしか使用しません。また粋更kisaraの一部商品には目打ち120本(!)という生地を使用しています。ただし、この品質の生地が織れる職人は限られているため、商品の数にも限りがございます。
なぜ手績み手織り麻なのか
中川政七商店では、現在も江戸時代の奈良晒と同じ製法で生地を作っています。1疋(約24m)の生地を織るには熟練の織り子さんで10日かかります。1疋の生地に必要な糸は1.2kgで、その糸を績むのには24日かかります。それ以外にも生地ができるまでに必要な作業はたくさんあります。1疋の生地を作るには多くの人の手と多くの時間を要します。それでも私たちは昔からの製法で作られた生地にしかない良さがあると考えます。温かみであり、誇りであり、味であり、自信であります。品質の安定・効率だけを考えれば、機械で紡績された糸を使い、機械織機で織ることもひとつの選択だと思います。
しかし、私たちは10代政七が、産業革命後の西洋文明流入著しい大正・昭和の時代に、敢えて奈良晒の復興にかけた気持ちを大事にしていきたいと考えています。機械では作れない、人間の手でしか作れない大切なものがあると信じて。
奈良晒の製法
原料の苧麻(ちょま、青苧(おうそ)ともいいます)を績んで糸となし(この工程を苧うみ(おうみ)といいます)、よりをかけて経糸(たていと)(この状態を綛(かせ)といいます)をつくり、これを度数に応じて整経し、糊づけ、もじり入れ等を行って機(はた)にかけます。
一方、へそ巻きした緯糸(よこいと)を杼(ひ)に入れ、機にかけた経糸の綾の間に杼を通して織り上げます。数度の晒工程を経て、織り上がった麻布(この状態を生平(きびら)といいます)を真白く晒上げ、仕上げます。製造工程をまとめると上図のようになります。