
岡本 友輝Yuki Okamoto
- 京都市 | KYOTO
- 細川御流 | HOSOKAWA
江戸時代より続く細川御流の十代目。同流派は加賀前田藩において礼儀指南役を務めた細川吟右衛門を流祖とする武家茶道。家元である岡本さんは茶道の可能性や面白さを現代に伝えるべく、ヨガやワインなどの異文化とコラボしたイベントや抹茶BARを主催するなど、斬新かつ多彩に展開。
茶道は〝瞑想〟。
心を整える豊かな時間です
「茶道って礼儀や作法を学ぶ場として、あるいはかつての花嫁修行の一貫のようなイメージがあるかもしれませんが、僕としては、お稽古は煩わしい社会や忙しい日々から離れられる場所であり、ふと息を抜くことができて、自分自身に向き合うことができる時間。ある意味、茶道は幸福感を得るために行う〝瞑想〟のようなものだと思うんです」
「幸福になるための、なんて言うとちょっと怪しいと思われるかもしれませんが(笑)……。幸せの在り方には大きく二つあると思っていて。一つは何かを得ることによって感じる幸せ。お金を得る、欲しいものを買うなどして感じる幸せです。もう一つが〝感度を高める〟という幸せの在り方で、茶道のお稽古で得られるのはこちらです」

「ない」ところに「ある」ものを見る
2023年に家元を襲名し、今では茶道の魅力を伝えるべく尽力する十代目ですが、かつては苦手意識があったとか。「正座せなあかんし、堅苦しいし、お茶も苦い……(笑)」。そんな意識を一変させたのは禅と茶道の密接なつながりに気がついたとき。茶道の根底に流れる禅の思想や深い精神性に魅せられ、理解が深まるにつれて「茶道って、なんて面白いんや!」と夢中になったといいます。
「たとえば日々是好日という言葉があります。代わり映えのない一日と思っていても、よく見るとまったく新しい良い一日である、という禅語です。空を見たときに何も思わない人と、とても綺麗だと思う人がいる。手の上に何もないとき、何ももっていないと思うのか、手には血が通い、元気に動いてくれていると思えるか。何も「ない」ところに「ある」ことを感じ、今まで気がつかなかったことに気がつける。そうした心の在り方を養えるのが茶道だと思います」

基本はマンツーマン。
その人に寄り添ったお稽古を
岡本さんのお稽古はマンツーマンが基本。多くても2、3人までの少人数で行います。「人が多くなると社会が生じて、周囲と自分を比べたり、羞恥心が生まれるなどの雑念が生じます。そんなことより、ただただ時間を忘れてお茶に向き合う場所にしたい。茶道の技を身につけると同時に、日常から離れた癒しの時間になればいいな、と」
大人数だと拘束時間が長くなり、稽古日程も固定されてしまうため、足を運びにくくなるというデメリットも。1対1だからこそ、「その人に必要なお稽古にみっちりと集中できる」と話す岡本さんは人によって伝え方を変えているといいます。「お点前や作法など、稽古内容は同じでも、人によって興味の方向性は異なるし、そのときどきで欲していることが違ったりもするので、その辺は臨機応変に対応するようにしています」

顔つきが変わったお弟子さんの話
お弟子さんは20代~30代が中心。最初は右も左も分からない状態でも、お稽古を続けていると、所作に慣れるだけでなく「顔つきが急に変わることがある」といいます。印象的だったのは「もともと海外に暮らしていた30代女性。僕がやっている抹茶BARに遊びに来てくれたのがきっかけで、お稽古に来てくれて」
「習い始めて間もなく1年というとき、彼女がお茶会でお点前デビューをしたんです。まったく知らない方にお茶を点てるという経験をしてからというもの、彼女のなかで何かがググッと深まった。お点前の美しさはもちろん、お茶を点てているときの雰囲気や顔つきまでガラリと変わったんです。話を聞くと『お茶を点てること自体が大事なのではなく、その場に身を置いて自分自身が何を感じるのか。感じることでいかに豊かになれるのかが分かったような気がします』と言ってくれて。それを聞いたときは嬉しかったですね」

刀(スマホ)を置いて、お茶をしよう
細川御流が行う武家茶道とは、江戸時代以降に武家社会の間で行われてきた茶道であり、武士文化の影響を受けた武家点前が楽しめます。
「戦国時代、武士は命ともいえる大事な刀を置いて身一つで茶室に入りました。斬るか、斬られるかの時代ですから覚悟もいるでしょう。でも、茶室は身分など関係なく1人の人間として存在することを求められる場。誰もがみな人間同士の付き合いをしていたんです。現代に置き換えるなら刀はスマホでしょうか。みなさんもスマホを置いて身一つで、1人の人間としてお茶を楽しんでいただけたらと思います」






ときの価値観をガラリと変えた黒楽茶碗
「僕が好きなのは黒楽。というのも、ときの価値観をガラリと変えた茶碗だからです」。中国の煌びやかな唐物が主流だったところ、わびさびを唱えた千利休はシンプルに抹茶を楽しむための黒楽を作らせた。「見た目はシンプルですが、手になじみやすく温もりを感じられる。茶碗が、人に見せる道具から使い心地の良い道具になったんです。そんなところがとても気に入っています」






- 岡本 友輝Yuki Okamoto
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稽古場:京都府京都市 鞍馬口駅
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