地産地匠アワード2024

地産地匠アワード2024
審査レポート

2024年、初めての開催となった「地産地匠アワード」。全国各地から計80件のエントリーが集まり、一次審査では審査員それぞれが書類で審査を実施。14チーム、計15点が最終審査に進みました。
最終審査では、2日間にわたり対面での審査を実施。1チームずつ、実物サンプルの提案とプレゼンテーションを行いました。その後、審査員それぞれの評価を持ち寄って議論した上で、グランプリ1点、準グランプリ1点、優秀賞2点が決定。
このレポートでは、最終審査の場で何が議論され、どのように受賞作が決定したか、その過程をお伝えします。

審査員達

【大治将典さん(以下:大治)】では、誰か一人でも◎(グランプリ候補)を入れたものと、全員が◯(準グランプリ~優秀賞候補)を入れたものから議論しましょうか。

【坂本大祐さん(以下:坂本)】こうして並べると、一定の完成度は感じますね。

【大治】この中からグランプリを決めるのが良さそうですね。
まずは◎を付けた人から、その理由を話していきましょうか。

「MEBUKU BENTO」

「めぶく弁当」

【加藤駿介さん(以下:加藤)】僕は◎をつけました。一次の書類審査のとき、普通にお椀になるのかなと想像していたんですけど、実際は信玄弁当という形になっていて、種子が入っていた。まずそこに驚きました。
実際には、多分ほとんどの人はこれを埋めないとは思うんだけど、それよりも思想と教育の意味が大きい。例えば今年これを売ろうとか、今年どうやって伝えるかじゃなくて、すごく長いスパンの取り組みとして考えられている。材料や原料の問題への啓蒙という意味でも、結構面白いかなと思って。
お椀ではなく信玄弁当にしたことで種子が上に来るので、それも秀逸だなと思いましたね。

審査風景

【加藤】価格に関しては、もっと上げていいと思っていて。作れる数もすごく少ないと思うんですけど、そこはあんまり管理していない。そういう姿勢も含め、取り組みと、ものとの関連性がしっかりしている。
あと、座組みもいいですよね。国産の漆って、本当に今使えるのは1パーセントぐらいじゃないかな。ほとんどが神社仏閣の直しの方に行くから、一般の方で使うことはほとんどできないんですけど。実際に植林をして、 その種を使って、という流れも良いと思います。種って国外に持ち出せないですけど、それも面白い。長い目で見ると工芸は国外に出していく流れになると思うんですけど、でも、出したくても出せないっていう、その制約が逆に面白いのかなと。日本で買っても持って帰れないっていう。
もう一つ、漆ってすごい好きなんですけど、たとえば子供にとってはプラスチックと塗りのお椀の違いを見分けるのはかなり難しい。そういうときに、この種がメッセージとして寄与できる。教育的な観点でもいいなと思います。

【大治】木本さんはどうですか。

【木本梨絵さん(以下:木本)】 私はこれだけ◎をつけました。理由が結構明確で、種の役割の果たし方がすごく美しいなと。 種を植える、木を植えられることは機能だと思うんですけど、この「種を植えて未来につなぐ」という機能が、デザインにも寄与してるのが素晴らしい。種の埋まり方が可愛く、漆の流れで埋まっていて、それがベーシックな器のデザインに効いている。種、というものが、未来につなぐという重要なコンセプトであり、機能であり、デザインのキーポイントにもなっている。
実際は埋めないだろうというのは私も同感で、それについてプレゼンの時に質問もしましたが、 「埋めることはあまり想定してなくて、むしろメッセージだ」ということを強調されていたので、であれば納得できるなと。埋めてやっと成立するものだとしたら、実際は埋められないから形骸化したものになってしまうんだけど、そうじゃない。これがメッセージとして寄与することで、例えば結婚式の引き出物のように、永遠を誓うようなタイミングでもすごく渡しやすいものになっている。
種があることのメッセージ性が、このプロダクトに対して永続性みたいなものを付与している。しかも、日本的な考え方ですよね。西洋の石造建築のように同じものがずっと残る考え方ではなくて、 式年遷宮みたいな、日本の永遠性を表現しているんだと思いました。 そういうことも含めて包括的に考えると、私はこれだけがグランプリを与えられるかなと。しっかりした文脈、デザイン、オケージョンを兼ね備えたものじゃないかと評価しました。

審査員

【大治】僕もこの「MEBUKU」は形も秀逸だし、種のストーリーもよくて、産地の人としっかりやってるのもいいと思いました。唯一気になってるのが、 種が目立ちすぎるんじゃないかと。この種の入れ方ってここでいいのかな?そのストーリーのためだったら、上側じゃなくてもいいんじゃないかと思って。 例えば、中身の側に入れてもいいんじゃないかな、とか。

【木本】下側でもいいですよね。さりげない方が確かにいいかもしれない。

【大治】表に種があることで、種にばかり目が行っちゃって。漆の綺麗さとか奥行きよりも種にフォーカスが取られちゃうのがすごく気になった。種も3つあるから余計に食いついちゃう。
開いたときに裏に種がある、みたいな方が奥ゆかしくないですか。

審査風景

【加藤】でも僕は、これが例えばただのお椀として提案されていたら、評価が違ったと思います。信玄弁当にしたことで、収納するときには種が表に見えるし、使うときは種の側が下になる。
ただのお椀だったら、逆に装飾的に見える。いま種が見えているのは、収納時の話だから。目立ってるかというと、実際どうなんでしょう。
例えばお店でディスプレイをするとき、お椀だと、逆に向けて置かないじゃないですか。そういう意味では信玄弁当の形になっていて、表に入っている方がいいんじゃないかなと。

【坂本】お店で見せる必然性はあるよね。あと、そもそも、なんで種は3つなんでしょうね。なんか意味があんのかな。やっぱり量がある方が生えてくる確率が高いとか。その3っていう数字に意味があるんやったら、それはいいかもしれない。

【木本】ちゃんと生えるのかは、とは言え結構大事ですよね。もし生えなかった場合に、デザイナーの妄想みたいな商品になっちゃうから。 誰も埋めないかもしれないけど、もし誰か1人が埋めた時にちゃんと種は機能するのかっていう。
そもそもこのプロダクトをどういう人が買うんでしょうね。お茶碗の2点セットだったら買うイメージがあるんだけど、このお弁当箱を誰が買うのか。ちょっとマニアックなプロダクトではあるので。お味噌汁とご飯のセットで、お茶碗が4つセットで、とかだったら買うかもしれないけれど。

【大治】今、上代は3万って書いてるけど、もっと上がる可能性があると思う。そうなったときに、ちゃんとストーリーを伝え切って、売れるものになったらいいなとは思います。漆のプロダクトはもう安くは作れないので、ここまでストーリーを込めるのはいいなと思うんですよね。
もう1つ、◎がついた商品の話もしましょうか。

「支障木プロジェクト」
わっぱのケース、わっぱのバスケット

「わっぱのケース、わっぱのバスケット」

【大治】支障木は、加藤さんだけが◎をつけました。でも実は僕は、これが1番気になってます。

【加藤】さっきの「MEBUKU」と結構近いんですけど、座組みがしっかりあるところと、ストーリーだけではなく最後の仕上げまでしっかりしているところを評価しました。それとやっぱり、原料の問題ですよね。これから、どの産地でもぶち当たる問題だと思うんですよ。それを今の段階から着目しつつ、新しい取り組みとしてやっている。
長い目で見ると結局、じゃあ「産地ってなんなん?」という話にもなってくる。別に海外から原料を入れてもいいんじゃないかとか、手で作らないとだめなのか、という話になってくると思うんですけど。 原料の問題には誰もが絶対に向き合うことになるなかで、「MEBUKU」も「支障木」も両方とも今から向き合っている。啓蒙という意味でも、どちらかをグランプリにしたいなっていう気はします。

【大治】僕も新しい産地を作る感じがして、すごく面白いなと思ったんですよね。
静岡はもともと木工の産地だから、まだ流通が残ってて、キコリさんも近くにいて、 加工できる人がいて、かつデザイナーもそこに住んでいる。そこまで普通はまとまってないです。家具の産地でも材料屋さんがいないことが多いけど、静岡はギリギリ残っている。そのなかで、「山から取るんじゃなくて街から材料を取ろう」というのが面白い。
日本にある曲げわっぱは、基本は針葉樹で、広葉樹をちゃんと曲げて作られているのは見てて面白いし、日本っぽくない仕上がりもいい。それが例えば中川政七商店のお店に並んだりすると面白いなと。なんでこれが?と思ったときに、町から木を切っていることとか、産地が連携しているんだみたいなことが分かると、地産地匠アワードはこういう新しいことをしようとしてるんだ、というストーリーが強くなるんじゃないかと思います。

「わっぱのケース、わっぱのバスケット」

【加藤】素材に関しては、「MEBUKU」も「支障木」も両方ともそうですけど、普通に生活している人はわからないですもんね。

【坂本】なんで?ってなるくらいが必要だよね。まずそこが結構大事。
だから逆に「MEBUKU」の方で気になってるのは、「地産地匠」の「匠」の部分がはっきりは見えてこないこと。「地産」の方が強いというか、作り手さん側の思想の方がすごく前景化していて。「匠」の方はこれからコミュニケーションのなかで出てくるという感じだから、その辺がどうなんだろうとはちょっと思います。「地産地匠」のコンビネーションという意味で言うと、「支障木」の方がしっかりしているようには感じます。

【木本】私は「支障木」は、すごくストーリーも素敵でいいなと思ってたんですけど、デザインが少し気になっています。シェーカーボックスとかで、見た瞬間にかっこいい!ってなるものってあるじゃないですか。 それぐらいの驚きはなくて。曲げ木のプロダクトがたくさんあるなかで、買う人も目が肥えてきていて。これを見たときに、デザインが物足りないんじゃないかなと。金具が気が効いてるとか、留め具のところに工夫があるとか、広葉樹だから面白いというのはあっても、デザインとして個性が立っているかというと、あまりにもシンプルすぎるのかなと。
曲げ木のプロダクトのなかで、デザインは普通だけどストーリーがいいから買おっかな、だと、グランプリレベルじゃないのかなと思いました。

【大治】それも一理ありますね。
他の2つの◯がついたものについても話してから考えましょう。

「トリプルオゥ」刺繍ポシェット

「刺繍ポシェット」

【坂本】これは、何がしかの賞が行くのは間違いないなって感じですね。

【大治】プレゼンを聞いて、産地を引っ張っていこうという志も分かった上で、物単体だけで見た時に、ちょっと高見えしない感じがして。パッと見たときに3万円ですと言われて、そういう価値が出ているかが気になりました。あんまりこう、迫ってこないっていうか。 例えば素材感とか色使いとか使用シーンとか、そのあたりがもうちょっと見えないと判断が難しい。でも、もの自体は面白いですよね。

【加藤】僕も、技術がすごく面白いなと思いました。ただアパレルに近いものが難しいのは、ブランド力が結構大事なところ。もともとアパレルは分業体制で、デザイナーとメーカーが分かれているなかで、この技術を使って他のブランドと協力するやり方はいっぱいあると思うんです。それも1つの産地のあり方だと思うし、技術は残っていくと思うけど、それでお客さんがメーカーのファンになっていくかは難しいかもしれない。
そのなかで、自分たちのブランドで、既にアクセサリーで積み上げてきているなかで、新しくバッグを作った。

【坂本】だからある種、パイロット商品みたいになるってことやんね。面白い技術やできることを世に見せるためのブランドっていうか。

【加藤】その辺の着地点とかも合わせて考えられていると良いですよね。

審査風景

【木本】映像で見ると特に、紐や仕上げの部分の頼りなさが若干チープに見えてしまうのが難しいですね。
これが有名ブランドのバッグだったら何万円でも出すんだけど、急に現れたブランドのものには出さないっていう。残酷だけどファッションってそういう業界だから。ちゃんとブランディングしていって、3万円を出したいブランドにしていく。そのためにビジュアル撮影をちゃんとして、SNSを工夫して、そういうところから全部やりきったら3万円で売れることはあるとは思うんですけど。急には売れない、というのはそうですよね。
プロダクトだとブランドは関係ないこともあるのに、ファッションの文脈、急にカバンとかになった瞬間に、みんながどこのブランドなの?となっちゃうのはやっぱりある。1万円だったらよく知らなくても買うかなって感じはするんですけど。ハードルは非常に高いなっていうのは思いますよね。
ただ完成度は高いし、技術力もあるし、しっかりデザインと技術が整っている。文脈やコンテクスト勝ちじゃないものも、このアワードでちゃんと評価されるべきだとは思います。

審査員

【大治】1万円を切ってて、携帯ケースだったら欲しいと思うかもしれない。この値段の難しさを感じますね。
では最後の1つについても話しましょう。

「越前瓦器」

「越前瓦器」

【大治】最初に書類を見たときには、断面がもう少し考えられるんじゃないかと気になっていたんですけど。実物を見てみると、焼き味とか、土を押し出してそのままカットする作り方とか、よく考え抜かれていると思いました。

【坂本】断面に関しては、作り方としてもあまり薄くはできないんでしょうね。
僕が1番面白いなと思ったのは、瓦から器にっていう転換のダイナミックなところですよね。

【大治】その上で、ちゃんと使える。ちゃんと見える。

【坂本】お寿司屋さんとかで出てきそうですよね。

【大治】そうですね、あとパッケージとかグラフィックとかも、グラフィックデザイナーが背後についてちゃんとやってるのはすごくいいなと。ただ、じゃあこれが地産地匠アワードのグランプリかと言われたら、何かが足りないんじゃないかなと。

【加藤】僕は自分も焼き物をやってるなかで、良いなと思ったのは、そもそも越前は六古窯の産地で。ただその中でも今、一番作家も少ないし、メーカーも少ないんです。でも唯一、瓦メーカーもあったから、この商品が生まれたんですよね。
押出成形という瓦の作り方で、焼き物はどうしてもロスが出るけど、無理がない作り方をしている。値段に関しても、もともとは瓦1枚が400円のところが、これは1枚で1980円になる。それで多少、メーカーが回るんだったらすごくいいことだなと。いろんな意味で無理がないプロダクトだなと思います。 それは多分、「匠」の側、デザイナーさんがメーカーのことをちゃんと理解していらっしゃるから。
あと例えば、今の国内のレストラン需要にもマッチしそうですよね。普通の温度より高く焼いてるから割れづらいし、スタッキング性もある。トータルのバランスはとても良いと思いました。
ただ、グランプリかと言われると難しいですね。今回、どこに重きを置いて審査するか。

【大治】やっぱり「地産」をどこまで深掘りできたかが見たくなっちゃう。

【坂本】そういう意味で言うと、「MEBUKU」や「支障木」はもうちょっと突っ込んでる。例えば「越前瓦器」でいうと、土を作るところから考えたみたいな話じゃないですか。
やっぱり「MEBUKU」の、漆を3年前から育ててるっていうリアリティとかが大事なんですかね。

「越前瓦器」

【木本】私が「越前瓦器」の説明の中ですごくいいなと思ったのは、「瓦というものは、日常風景に背景として馴染むものである」というロジック。それはお皿も一緒で、食べ物の背景として馴染むものであるっていう。この瓦のマテリアルというものが、人間生活の背景として、一歩引いて馴染むものである。そのコンテキストにおいて、屋根と皿って同じだと。そういう風な転換の仕方が、今後とても大事なんじゃないか。屋根を器にしていいんだ、じゃなくって、瓦ってなんなんだっけ?瓦ってこういう立ち位置だよね、瓦ってこういうアティチュードだよね、だったらお皿だよね、みたいな。これって瓦以外のいろんな伝統工芸とか衰退産業に転用できる考え方のキーとして、すごく素晴らしいなと思いました。
表面的なところを持ってきていたり、単に屋根を器にする、と思っていると、違うものになった気がするんですよね。表面的に瓦がなんなのかってことよりも、人間の生活に対してこのマテリアルはどう寄与するかっていう内側を紐解いた結果、お皿になったっていう、 このストーリーがすごく美しいなと思いました。◎をつけたいぐらいだったんだけど、これがグランプリかな?と思って、◯にしました。

【大治】やっぱりみんなそう思うんだね。

【坂本】なんなんでしょうね。

【加藤】何かが引っかかってるんかな。

最終議論

審査風景

【大治】一応これで、全員が◯をつけた4つの商品について話しましたね。
今の話を全部聞くと、やっぱり「MEBUKU」かな。木本さんが言う、「わっぱ」が物足りないっていうのもめっちゃわかるんですよね。

【木本】もったいないですよね。もっと可愛いのあるじゃんってなっちゃいそうな。なんかお情けで買ってほしくないっていうか、素敵なことしてるから買おうみたいなのって良くないじゃないですか。

【大治】やっぱりいろんなこと考えると、「MEBUKU」はちょっと突出してるかなと思いましたね。

【坂本】そもそも、自分たちで種を育ててなかったら、種を取れないですもんね。そのリアリティがある。どっかから引っ張ってきてとか、外国の種が入ってるとかっていうと、これは意味がないですから。

【木本】悩ましいですね。
この審査員が揃っていて、ちゃんとクラフトの強さも評価しているなかで、コンセプトオリエンテッドなものだけが高く評価されるのかと捉えられてしまうのは違いますよね。サステナブル賞というわけではないから。そういう意味ではベーシックで完成度の高い「越前瓦器」の良さもある。

【加藤】僕は今の木本さんの話を聞くと逆で、だからこそ原料問題っていうところにフォーカスすべきなのかなと。難しいですけど。

審査風景

【木本】そうですね。この4つが並んでいるとバランスは良いんですけどね。

【大治】「地産地匠」というコンペを無しにしたときに、この4つの商品がありました。となったときに、どれが一番ぐっとくるかと思ったら、「MEBUKU」だけ代替品がない。種が入っているお椀はこれしかない。そう思ったときに、「MEBUKU」は圧倒的に強いと思います。

【坂本】信玄弁当という形を選んでいるっていうところもですよね。ほんまにただのお椀やったら、全然ピンと来ていないかもしれない。

【大治】うん、ここまで進化したのがすごいな。そこはデザインだと思うよね。

【木本】今の話を聞くと、やっぱり「MEBUKU」かな。あとは審査員からのメッセージとかで、ちゃんとバランスが取れればいいですね。種が続いていくことだけにフィーチャーするのではなくて、プロダクトの形の話や、何年もかけて植林をしてきた、というところも大事だと。素材の話やデザインの話にもちゃんと4人がそれぞれコメントしていれば、意図は勘違いされないんじゃないでしょうか。

「めぶく弁当」

【坂本】僕たちが今見てるのは、軸としての射程の長さなんでしょうね。どこまでを考えているか。「支障木」もそういう射程を持ってるし、 「越前瓦器」も持っていると思うんですよ。すごく安く土を切り出して売る状態を瓦はやり続けていたけど、 それを価格を転換させて金額を上げることによって、資源が減る量を減らすというのは、事実、原料問題に寄与はしていると思うので。ただその射程が一番長いのが、「MEBUKU」なんじゃないか。

【大治】あと、漆がもう本当に絶滅危惧種になっちゃっていて。 家でお椀を使う人がほとんどいなくなっているところに、漆が生き残る道を「MEBUKU」のチームはすごく考えていて。これまでにも漆の匙とか色々作ってきている。その上で今、お椀じゃなくて信玄弁当を作ろうというのが、なんか、男気を感じる。お椀がなくなるかもしれないと思いながら、お椀をずっと、10年間も売ってきたんですよ。でもその上で、これを作るっていうのは良いなと思うよね。
間違いなくもう安くはならないし、それでも買ってもらえて、こうやって一緒にいてもらえるためには何が必要なんだろうってことを考えてるから、ここまで仕上がっているんだなと。

【坂本】種は、買う理由にはなると思います。少なくとも。

【大治】うんうん。ではみなさん、「MEBUKU」でいいですか?
(満場一致で合意)
ではこれをグランプリにしましょう。

「めぶく弁当」

【大治】次は準グランプリをどうしましょうか。
今の話だと、「越前瓦器」か「支障木」のどちらかですかね。

【坂本】製品の完成度で言ったら「越前瓦器」ですよね。ただ座組とか物語の良さでいうと「支障木」なのかな。

【加藤】仕組み的には、「支障木」は本当にすごいことをしてますよね。意外と新しいですよね。

【大治】静岡も辛い産地なんですよ。木工と聞いて、いま静岡って浮かばないじゃないですか。でも元はめちゃくちゃ家具の産地だったから。それがまだギリギリ残ってるチームを組んでなんとかしようって思っているのがすごい。

【加藤】大体チームを組むと、なかなか上手くいかないことも多い。誰かが足引っ張ったりとか。
だけど、なんかすごく健康的なチームの感じがしました。

【坂本】「越前瓦器」は、実力と実績のある人が集まったチームという感じやからね。デザイナーさんも手練れの方だし。

【木本】そういう意味では、わざわざこのアワードが賞を与える意味やインパクトを考えると「支障木」の方なんですかね。

【坂本】引き上げる、発見する、っていう意味において言うと、「支障木」の方に分があるような気がしますね。

【大治】支障木をどうにかしよう、という試みが「 新しい地産」という感じがして、すっごい面白い。元々ある産地ではなくて、産地を新しく作ろうとしてるというところ。

【木本】私も今の説明を聞いて、このアワードが持つ引き上げという役割を考えると「支障木」がいいように思いました。物語や座組はもちろん、広葉樹で曲げ木をやる面白さや、ランダムな木材を使う技術のすごさ、デザインも評価できるんだったら尚更そうですね。

【大治】ここの加工は結構厳しいですよね。よく曲げたなと思います。 もちろんもう少しプロダクトを頑張ってほしいとは思うけど、この座組をつくるところにめちゃくちゃ手間もかかっているし、デザイナーも頑張っていると思うんですよね。

【木本】応募としては「わっぱのケース」「わっぱのバスケット」が別々でしたが、受賞は2点セットにするのがいいなと思いました。1点だとそのプロダクトのデザイン性にフィーチャーしちゃうけど、セットだと同じコンセプトでこういう一連を作っていくんだという姿勢がより見えるので。デザインだけではなく、違うところも評価していることがよく分かると思います。

【大治】では、「わっぱのケース」「わっぱのバスケット」をセットにして、合わせて準グランプリにしましょう。
そして、「越前瓦器」と「刺繍のポシェット」を優秀賞に。これで受賞作が決定しました。お疲れ様でした!

【全員】(拍手)

「わっぱのケース、わっぱのバスケット」 「越前瓦器」 「刺繍ポシェット」

審査総評

審査員一同

【坂本】僕は、みなさんと審査できてよかった、というのが正直な感想ですね。自分は地域とデザインという意味では知見を持っている方だと思うけど、プロダクトという意味で強くコミットできているわけではなくて、みなさんと一緒だからこそ良い審査ができた。すごく良い座組みで審査させてもらえた、というのが率直な感想です。
応募してもらった人たちにも、このアワードの趣旨が伝わっているのが嬉しいですね。ポーズだけでやっていない、本気でそれをやろうとしているものが中に入っていて、それを我々も選べたのが面白かったです。

【加藤】僕は信楽が地元で、産地のなかで昔から日本のものづくりを見てきていて。今回、福井が強かったり、東北から良いものが出てきていたりするのは、ちゃんと種まきをしてきたからなんだなと思いました。産地のものづくりがある程度の水準までいくためには、10年、20年かかる。バブル以降、産地が一度盛り上がって、衰退して、その後再び種まきをしてきたこの30年が芽吹いてきている感じがあります。まだまだ、捨てたものではない。そういう意味で、このアワードも意義があるんじゃないかと思いました。

【大治】このアワードの審査員を引き受けるときに思ったのは、ライバルとか競合とか言っている段階じゃないということ。産地は崩壊しているし、材料もなくなってきている。もうライバルとかじゃなくなってきていて。無くなっていく産地があっても仕方ないけど、じゃあ新しい産地をつくればいいんじゃないか。今回、そんな試みを見出したいと思っていました。だから今回の「MEBUKU」や「支障木」チームのやり方みたいに、新しい産地を作り出そうとしているのが見れたのは本当に良かったです。
地域のデザイナーのレベルは間違いなく上がっていて、ただちゃんと作り手がご飯を食べられて、心の底から作ることを喜んでいるものが生まれているかというと、まだまだだと思います。それを売るところまで手伝うと地産地匠アワードが言ったのはすごい。社会貢献的であり、公共の仕事ですよね。そこに感動したので、もっと長く続けて、新しい産地が生まれてきてるな、みたいなものが死ぬまでに見られたら幸せだなと思います。
あとやっぱり、グラフィックやウェブと違って、プロダクトデザイナーはなかなかフリーで食えないんですよね。自分みたいに、工芸でプロダクトのデザインで食えていて楽しい、という人を増やしたいです。そういう意味でも続けていきたいですね。

【木本】いま、イギリスに住み始めて3ヶ月が経ったんですが、日本にはここまでブランドがあるのかと、ひしひしと感じ続ける3ヶ月でした。日本だけが特別な国で、日本人であるというだけで得られるもの、日本というだけで注目されることがある。それに圧倒的にぶち当たって、日本ってすごいと思っていたところに、今回遠隔で審査に参加させてもらって、「あの小さい島国で、こんなにたくさんのエネルギーがある大人たちが色々試行錯誤して作っている」という事実を見られたのがとても誇らしいです。距離もあったので客観的に見ていたかもしれませんが、あらためて日本ってすごいなと。こんな風に集まって伝統を残そうとしていて。こういうことがあるから、日本は世界のなかで特別なんだと。日本が本当に素敵だということを、プロセスのなかでひしひしと感じて日々感動していました。
このことが伝わってないんだとすると、すごくもったいないですよね。伝統を残そう、地域を残そう、それを形にして引き継いでいこう、という細やかなエネルギーが伝わってなさすぎるのがもったいない。こういうものが光を浴びるために地産地匠アワードがあるということを、この2日間の審査で理解しました。
そして、このアワードはここからが本番だと思います。賞を発表して終わりではない。販路を支援するのももちろんだけど、どう情報として広げていくのか。小さいところで狭めず、販路や年齢層や国も超えてどう広げていくのか。縮こまらずに、コミュニティ感を打破すること。広げ方が肝で、実はこのあとが肝心ですよね。発表して良かったね、WEBに受賞作がどんどん載って、売るのを手伝って、その上でどうなっていくか。そこで、地産地匠が本当の意味で問われると思います。100年、200年単位のことを考えていかなきゃいけない。これが、日本の魅力を絶やさない第一波になっていけるといいなと深く感じました。ありがとうございました。

審査員のみなさま、一次の書類審査から最終のプレゼン審査まで、長きにわたる審査を本当にありがとうございました。2025年度のアワードも、同様の審査プロセスのもとで審査を行う予定です。このレポートのなかで議論されていた視点を、ぜひ今年度の応募にお役立ていただければと思います。