刺し子は、布が貴重な時代、寒さの厳しい地方を中心に、全国の家庭で暮らしの知恵として育まれた針仕事です。
布地にひと針ひと針刺すことで、布の補強や補修することを目的として始まりました。
時代が下るにつれて、機能性だけでなく装飾的な意味をもつようになりますが、もともとは必要にかられて生み出された技でした。
シンプルな手刺しから始まった刺し子は現在、刺繍、刺縫い、刺し子織などさまざまな技法に発展しています。
時間をかけてひと針ひと針刺すことによって、布に宿る普遍的な価値を見つめ、さまざまな技を用いながら「刺し子」をテーマに今の表現を探りました。
「枡刺し」など古くから刺し子の文様として用いられてきた直線の構成を基にしながら、一針一針刺し描く、一枚の絵画のように表現したタペストリーです。時間をかけて丁寧に手刺しされた布に、一枚一枚色を染め重ねて仕上げました。見る角度によって、文様の表情が変化します。
元々は布の補強のために生まれた刺し子の技法は、現在に至るまで様々な技に進化し、装飾的な表現手段の一つにもなりました。機械のような規則性のない手だからこそできる、そんな手刺しの自由な表現を試みたタペストリーを作りました。下書きがなく、その時その時の感覚で刺し進めることで、人の手の痕跡が残る世界でたったひとつの刺し子の布が完成します。
刺し子によって生まれるゆらぎや人の手の温もりを、ミシンを使って表現した製品です。やわらかな太い糸を、刺し子を施すように、一針一針丁寧に縫い続けることによって布の強度を保つことと、装飾性を併せた1枚の布に仕上げました。
生地を二重にして刺し子を施した厚手の生地は、かつて火消半纏や漁師着として使用されていました。現在、刺し子は織りで表現することが可能になり、柔道着や剣道着に用いられています。この生地を、暮らしの布として取り入れました。二重織で表現した刺し子は厚手なだけではなく、甘く撚った刺し糸によってふっくらとやわらかい肌あたり。また、表と裏の刺し子の表現が異なり、一枚でふたつの表情をお楽しみいただけます。
二重織で表現した刺し子は厚手なだけではなく、甘く撚った刺し子糸によって肌あたりはふっくらとやわらかく、この生地の風合いを生かし、ゆったりとくつろげるサイズの長座布団を作りました。中綿の中心には腰のある芯材を入れ、一般的な座布団に比べ、へたりにくい作りになっています。奈良の布団店で、一つ一つの工程のすべてを丁寧な手仕事で仕上げています。